「この音楽には”1/fのゆらぎ”の成分が含まれています。」とか、
「モーツァルトの音楽には”1/fのゆらぎ”の成分が多く含まれています。」などの記述を見ることがある。
しかし、実際に音楽の中にどのように含まれているかを解説している記述は見たことがない。
環境音楽作曲家としては、音楽のどこに1/fの成分を見つけることが出来るのかが気になるし、
また、それを見つけることが出来れば自分の曲にも利用できると思い、考察・調べてみたことがある。
このページの内容は、その研究結果で、
以前、名古屋芸術大学の講義テキストとして使っていたものを、本サイト用に編集したものであり、
また、東京外国語大学と、東海大学のある会議で発表済みである。
「研究ー音程を調べる」
要は”1/f”の”f”に何をあてはめるかだ。
(1/fについては他のサイトで調べて欲しい)
そこで私は”f”を”音程”と”音価”の二通りで考えてみた。
まず、音程の場合。
音程とは音の隔たり(厳密には”ある音組織の中における”となるが)を示したものだ。
下の楽譜の左側、”ドとレ”は2度、
右側の”ドとミ”は3度の音程にあると言う。
(実際には左側は”長2度”、右側は”長3度”と度数の数字の前に”長”や”短”等の文字が付されるのだが、
この研究ではそれらの区別はしないものとした。)
この数え方で、ある年のレコード大賞曲のメロディを1コーラス分に渡って調べた。
すると、
1度・・・74回
2度・・・114回
3度・・・34回
4度・・・19回
5度・・・6回
6度・・・2回
7度・・・1回
8度・・・2回
という結果が得られた。
これをグラフに表すと、
1/fの曲線に近い結果が得られていると思う。
つまり、
「このメロディは1度(同じ音)や2度音程を中心としながらさらに離れた音程も使われているが、
遠く離れれば離れるほど、その出現率は低くなる。」
と言えるのではないだろうか。
そこで、今度は対極的な結果が得られそうな別の曲を同様の方法で調べた。
曲はベートーヴェン作曲:交響曲第6番「田園」第4楽章の冒頭25小節。
この曲は嵐を描写した曲であるから、1/fの曲線は現れないだろうと予測したのだ。
結果は期待通り、
1度・・・457回
2度・・・235回
3度・・・28回
4度・・・28回
5度・・・37回
6度・・・2回
7度・・・2回
8度・・・2回
9度・・・2回
10度・・・2回
11度・・・0回
12度・・・2回
13度・・・0回
14度・・・1回
これをグラフに表すと、
のようになった。
1度、2度のところは良いのだが、3度から極端に出現率が低くなって1/fの曲線からは遠くなっている。
つまり、メロディの音程の中に”1/fのゆらぎ”を見つけることが出来たのだ。
では次に、”f”に音価をあてはめて考えてみよう。
「研究ー音価を調べる」
音価とは、簡単に言えば四分音符とか八分音符等、音符の長さのこと。
曲に使われている音価の数を数えたら次のような結果が得られた。
まずは、ベートーヴェン作曲:交響曲第6番「田園」第1楽章冒頭24小節。
~24小節まで
十六分音符・・・32回(1)
八分音符・・・121回(2)
四分音符・・・66回(3)
付点四分音符・・・50回(4)
二分音符・・・7回(5)
二分音符が2つタイで結ばれた音価・・・2回(6)
二分音符が3つタイで結ばれた音価・・・2回(7)
これをグラフにすると、
となる。
八分音符を主に使い、そこから離れるに従いその出現率は低くなっている様子がわかる。
次に、
音程のときと同様、交響曲第6番「田園」第4楽章の冒頭25小節の音価を調べてみると、
音価の短い方から
十六分音符の5連符・・・80回(1)
十六分音符・・・449回(2)
八分音符の3連符・・・24回(3)
八分音符・・・116回(4)
付点八分音符・・・4回(5)
4分音符・・・8回(6)
2分音符・・・0回(7)
付点2分音符・・・5回(8)
全音符・・・2回(9)
全音符が2つタイで結ばれた音価・・・30回(10)
となり、これをグラフで表すと、
となる。
つまり、殆どが十六分音符であり、それ以外は極端に少なく、
”次第に出現率が低くなっていく”という傾向は見られない。
また、遠く離れた音価に、唐突に出現率が高いものがある。
まとめ
もちろんこれらの作曲家達が、出現率を数えながら作曲したのではない。
あるイメージのもとで作曲すると”自然とそうなる”のだろう。
音楽において”1/f”の”f”に入る項目は他にもたくさんあるだろうから、
それが多ければ多いほどその曲は”1/f”のゆらぎ成分を多く持っているということが言えるだろう。
一方、ヴァイオリンの音色(倍音成分)は”1/f”の成分に近いのだが、
「ヴァイオリンの音を使っているのでモーツァルトの音楽には”1/f”のゆらぎ成分が多く含まれています」
と言うのは良くない。
それが正しいとするならば、ヴァイオリンさえ使っていればいいことになってしまう。
モーツァルトの音楽にはもっと他の項目(f)で、”1/f”のゆらぎ成分が多く織り込まれているのではないかと思われる。
が、そこはまだ研究していない。